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「それに、私は雪巫女様に御恩を感じております。貧しい私の家族を救うために私を雪巫女様の御付きにしていただきました。私が御付きをやらせていただいたので家族は食べる物に苦労せずに済んだのです。これは言わば私の出来る限りの恩返しなのでございます」
真剣な表情でそう言った早夜に、雪は悲しそうに笑う。
「早夜、ちょっと待っててくれる?」
「はい?あ、雪巫女様っ!?」
雪は湯殿についてある戸を開ける。フワッと薬草の香りと共に、温かい湯気が湯殿に漂う。
檜で作られた屋根があり、その下には石で作られた巨大な浴槽がある。石はどれも磨かれて、雪を万が一にも傷つけないように作られたものだ。湯は山奥の泉より持って来て、数種類の薬草を沈めてある薬膳湯。飛暮村代々の巫女の入浴方法だった。
雪は巫女姿のまま湯船に向かう。外気に冷えた足下の石畳が雪の体を一気に冷やした。
「な、何をなさってるのですか!?お戻りくださいませ!!」
通常は御付きの者が石畳の上に温かな布を敷き、巫女はその上を歩き湯船に向かうのだ。
雪は近くにあった桶を取り、湯を汲み取る。それを湯殿に持って行く。
「はい」
雪は微笑みながら桶を早夜に差し出した。
「…え?」
「浸かるのがいけないのなら、せめて手だけでも湯に浸かって?知ってるでしょ?薬草には保温効果のものもあることを。こんなに綺麗な手なんだもの、大事にしなきゃ」
「雪巫女様…」
「大婆様には何も言わせないわ。だからお願い、ねっ?」
「そんな…っ!!…っありがとうございます…!!」
目に涙を浮かべながら、早夜は頭を深々と下げた。
「いつも御付きをやってもらってるんだもん。こちらこそありがとう」
「有り難きお言葉…っ身に余ります…!!」
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