少女、力、運命

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「大袈裟だよ。さて、私も入ろうかな。今日は『洗髪不要』の日だから、手伝ってくれる?」 「は、はいっ!!」 雪の着物を早夜が一枚一枚外していく。全てを取り終え、雪が早夜の用意した座布団へと座る。早夜が綿で出来た布で雪の体を包むと、櫛とかんざしを使い髪を結い上げていく。 巫女は髪を切ると霊力を失うと言われている。そのためか髪を洗うのも二日に一回と決められているのだ。 「はい、結い終わりました」 早夜がそう言うと、雪は結った髪を崩さないように優しく触った。 「やっぱり早夜にやってもらうと一番綺麗に結えるね。私もやろうとしたけど変になっちゃって」 「雪巫女様の髪が美しいのですよ。切れ毛も枝毛もなく、指通りも滑らかで」 「ふふ、褒めすぎだよ」 早夜は素早く石畳の上に布を敷く。湯船までに白い道が出来た。 「それじゃあ入ってくるね。早夜も手、温かくしてるんだよ?」 「はい。いってらっしゃいませ」 雪は自分を包んでいた布を取り去り、白い道の上をゆっくり歩いて行く。 湯船まで辿り着くと、桶で湯を掬い体にかける。そして足の爪先から静かに湯船へと浸かっていく。 「ふぅ…」 全身が湯に浸かると、思わず溜め息が漏れる。 「早夜、いい湯だね」 「はい、とても」 早夜を振り返る。桶に手を入れて揉んでいるように見えて、雪は安心したように微笑んだ。 「早夜、夜彦(やひこ)は元気にしてる?」 「それはもう…騒がしくてご飯をよく食べてます」 「夜彦ももう十を迎えたんだっけ。育ち盛りというものなのかな」 「ものは言い様、でございますね」 夜彦とは、早夜の十歳離れた弟である。七夕の日に生まれ、姉の文字を一つ貰い名付けられたものだ。 「弟は…夜彦はよく雪巫女様の話を聞きたがるのですよ」 「私の?」 「あの子は雪巫女様を一番尊敬しております故。雪巫女様がおられるから私たちが生きていけていると、小さいながらも理解しているようで。毎日帰れば雪巫女様の一日を聞いてくるのです」 「そう…暫く夜彦にも会ってないね。この後会いに行ってもいいかな?」 「えっ!?で、ですが宮を出られては大婆様が…!!」 「村の中ならいいでしょ。お目付役に早夜がいるのなら、大婆様も許してくれると思うの」 「しかし…我が弟のためにそこまでしていただくのは…」 「なら、村の中を散歩するのを目的にするよ。『ついでに』夜彦にも会いたいな」
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