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「私などにこんな素晴らしい手を合わせなくてもいいんですよ?」
そう言って雪が包んでいた老婆の手をそっと離すと、老婆の手は元の綺麗な手へと変わっていた。
それを見ていた周りの村人たちからどよめきが起こり、老婆に集まってマジマジと老婆の手を見つめる。
「なんてこった…綺麗な手になっちまってる」
「よかったねぇ千代婆さん!!」
老婆は言葉を失くし、目を見開いて手と雪を交互に見た。
雪は涙を拭い微笑むと、またスタスタと歩き出した。村人たちはそんな雪の背中を見送り、老婆は涙を瞳いっぱいに溜めて深く頭を下げていた。
「雪巫女様は、お優しいのですね」
早夜の言葉に雪は俯いた。
「私はね早夜…辛くて堪らないの…」
「え…?」
「人は生きるために…手があんな風になるまで働いているのに…私は何もしていない」
「雪巫女様は飛暮村の大事な『要』でございます!!雪巫女様が存在しているだけで私たちは…っ!!」
「そう、みんなそう言うね…でも私は…普通に暮らしていきたいよ。春と一緒に…」
「雪巫女様…」
雪は歩きながら早夜を振り返る。その表情はいつもの笑顔だった。
「……なんて、無理なことは分かってるの。ごめんね、早夜。またあなたを困らせちゃった」
早夜は首を激しく左右に振る。
「雪巫女様は、何もしていないはずがございません。私は雪巫女様の優しさに幾度となく救われました。それは村人とて同じこと。雪巫女様の御心在ればこそ、私たち村人は生きていけておるのでございます。落胆なさらないでくださいませ」
「ありがとう…早夜」
早夜の言葉に素直な喜びを表す笑顔で、雪は頷いた。
ふと、雪は何かの視線を感じて、村の横の丘を見上げる。
あっ…………――
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