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そこには、和夜が木に片手をついて立っていた。和夜の視線は、確実に雪へと向いている。
声も届かないほどの距離…そんな和夜と視線がかち合い、雪は胸を甘く疼かせた。
お互い言葉を交わすわけでもなく、ただ見つめあったまま…雪は口を動かした。
『ごめんなさい』
声のない言葉が和夜に伝わり、和夜は眉間に皺を寄せて首を振る。
そんな和夜に雪は微笑み、『ありがとう』と口を動かす。
「雪巫女様…?」
早夜の声に、雪はハッと我に返る。
「ごめん、何でもないの。行きましょう」
雪が再び歩き出し、早夜は雪が見ていた方向に目を向ける。が、そこには誰もいなかった。不思議に思い首を傾げながらも、早夜は雪の後を追った。
和夜は木陰に身を潜め、雪の微笑みを思い出していた。
「……雪…」
呟いた名前に、己の心臓は握り締められるほどに苦しくなる。しかしその苦しみの中に、雪が感じた甘い疼きを和夜も感じていた。
もう、手を伸ばしても届く距離にはいない。
虚無感はいつも体を巡り、自分を苦しめている。
和夜は手の平を見つめ、グッと拳を作ると、ダンッ!!と激しく木を殴った。
そんな和夜の姿を、春は木陰に隠れながら見つめて、悔しそうに顔を歪ませていた…。
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