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雪と早夜は一軒の民家まで辿り着く。庭に咲く椿が鮮やかに色付いている。茅葺きの屋根からボサッと雪が落ちて、中から一人の少年が現れた。
その少年は、ふと視線を雪たちに向け、目を見開く。それから輝くばかりの満面の笑みで雪たちに走り寄った。
「雪様…っ!!雪巫女様ぁ!!」
「夜彦、久しぶりね」
雪は優しく微笑み体を屈める。夜彦は二人の目の前まで来ると、ペコッと丁寧に頭を下げた。
「雪巫女様こんにちは!!」
「きちんと挨拶が出来るんだぁ、夜彦偉いね♪」
「へへっ♪」
雪に褒められて夜彦は嬉しそうにはにかんだ。
雪は夜彦の頬についた土を親指で拭う。
「ゆ、雪巫女様っ!!お手が汚れますっ!!」
「いいんだよ。元気よく遊んでる証拠だね夜彦」
「姉ちゃん褒められたよ!!」
「もうっ!!雪巫女様の前なんだから、はしゃがないの!!」
「いいんだって早夜。夜彦の言葉でいいんだよ」
「ホント!?あのね、あのね雪巫女様!!僕すっごく雪巫女様のこと尊敬してるんだよっ!?」
夜彦の無邪気さに早夜が注意しようとすると、雪が口に人差し指を当てて微笑んだ。それを見て早夜が苦笑する。
「夜彦は難しい言葉知ってるね、勉強してるの?」
「姉ちゃんたちの口癖なんだ、『雪巫女様は凄い』『本当に尊敬する』って。『尊敬』ってその人を心から凄いって思って、一緒にいると幸せになることだって姉ちゃんが教えてくれたんだよっ」
「え、早夜…?」
振り返った雪に早夜は少し頬を染めて俯き、小さく「すみません」と言った。
「的確な言葉が思い付かず…思ってることをそのまま教えまして…」
「…ありがと、早夜」
雪の言葉に、早夜は頬を染めたまま笑う。夜彦はキョトンと首を傾げた。
「僕、何か間違ってるの?」
「そんなことないよ。嬉しい、ありがとう」
雪の微笑みに夜彦は満足そうに笑った。
「雪巫女様、そろそろ戻りませぬと大婆様が…」
「そうだね。夜彦、会えてよかったよ。たまには宮に遊びにおいで」
「いいのッ!?ありがとう、雪巫女様っ!!」
大きく腕を振りながら見送る夜彦を、雪は目を細めて、姿が見えなくなるまで見ていた。
「いい子に育ってる。育て方がいいんだね、きっと」
「あ、ありがとうございます…まだ不束な弟ですが、成人になれば雪巫女様の御付きになりたいと申しておりました」
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