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縋るような瞳で雪は春を見つめた。その瞳が意味するものは『不安』…。春に嫌われるんじゃないかと、そんな不安が常に雪を悩ませていたのだ。
春は雪のそんな不安を感じ取ったのか、雪の頭をポンポンと軽く叩き笑った。
「なぁーに泣きそうになってんのよっ!!心配いらないよ。あんたが心配することは何もない。雪が元気なら、私はいいんだよ」
嫌いになんかなるもんか―…そんな意味が込められた言葉に雪は涙ぐむ。
「ありがと…本当にありがと春…」
「お姉ちゃんなのに…雪はホント泣き虫だね」
自分の胸に顔を埋める雪の頭を、春は優しく撫でた。口調からも仕草からも、春が雪に対してどれだけの愛情を持っているのかを理解出来る。
それが雪には嬉しくて、更に涙を誘った。
「雪、父様に会っていく?」
春の問いに雪は一瞬考えて、小さく首を左右に振った。
「ううん…私が宮を出て来たこと、きっと怒るから」
そう言った雪に、春は苦笑を浮かべる。
「そっか…じゃあ父様には内緒にしておく」
「うん、ありがと」
「雪巫女様」
早夜が呼ぶ声に雪が早夜を見ると、早夜が申し訳なさそうな顔をしていた。雪はそんな早夜を見て頷く。
「じゃあ…そろそろ戻らなきゃ」
「うん。足元気をつけるんだよ?また宮には遊び行くからね」
春の笑顔に雪は同じように笑い、頷いた。
「春も体に気をつけて?またね、春」
後ろ髪引かれる思いで、雪は春に背を向けて歩みを始める。早夜は春に頭を下げると、雪の後ろをついて行く。
お互いの姿が見えなくなる瞬間まで、春は雪から目を離さない。雪は振り返って春を見ることはしない。
ほんの一瞬、雪が振り返り春の姿を確認した。自分を見据える春の姿に、雪はまた目頭が熱くなる。
「雪巫女様…」
「早夜…どうして私だったんだろうね…」
寒さに悴んだ春の手を思い出し、雪は涙を溢れさせた。
自分は外の寒さを知らず、何枚も着物を重ね着して、専用の湯殿を使っている。
同じ血を分けた姉妹である春は手や着物をボロボロにして、薄い土壁の家で必死に暖を取って暮らしているのだ。
春がもし自分の立場なら、寒い思いもしなくて済んだのにと、今まで何度思ったことだろう。
「会いたい時に会えなくて、何が姉妹なんだろう…」
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