家族、分離、異種

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呟く言葉に早夜は俯くことしか出来ずにいた。何回もこんな雪を見たことがある。何回も同じ質問をされた。 けど、それに答えることは、一度として出来てはいなかった。 誰も答えが分かる筈はない。雪自身それを理解していた。それでも問わずにはいられない。 『どうして私だったのか』 雪の背中を見送り、春は家の中へと入る。 「春?誰か来ていたのか?」 春の気配に、部屋の奥から声がした。低い、掠れた男の声だ。 「織絵ちゃんが庭にあった椿が欲しいって来てたのよ」 適当な村の娘の名を出し、春が言った。 「雪ではないんだな?」 さっきよりも低く、大きな声で男は言った。 「違うよ父様。雪が宮を出れるわけないでしょ」 「そうか…ならいいんだ」 春の言葉に男…父親はホッとしたような口調になる。 「お前は雪に会っているようだが、あまり会うんじゃないぞ。雪が苦しむだけだ」 「……会わなかったら雪はもっと苦しむし、悲しむと思うけど」 「それが、お前たちの母さんが過ごしてきた時間だ」 春は眉間に皺を寄せ、悔しそうに拳を握り締める。 雪と春の父親は、七年前から寝たきりの状態が続いていた。雪と春が十の誕生日を祝った、運命のあの日からだ。 立つことも出来ない状態で、今となっては話すこともままならない。 父親は巫女となった雪に厳しかった。自分の妻が巫女だった時の暮らしを強いた。それを父親は当たり前だと思っていたからだ。自分の妻がしてきたこと、感じた思いを、同じ『巫女』という立場になった雪が出来ないはずはない。それが父親の考えであり、口癖でもあった。 それは、雪が成長するにつれ母親に似てきたことに由来するようだった。 そんな父親の考えが理解出来ない春は、父親の反対を押し切って雪を大切にした。
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