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その村には、一組の夫婦がいた。その日、妻は二人の赤子を出産する。
「産まれた…産まれたぞ!!」
初めて体験する眩しさに驚き泣き叫ぶ赤子を、涙で霞む視界で夫は見つめる。
出産を手伝った近所の老婆から、へその緒を切り、血を洗い流された赤子を夫が受け取った。
「肌が白く辺りを見渡しているのが先に産まれた子。元気よく泣いているのが後に産まれた子だよ」
老婆が優しい口調で言った。
妻は額に汗を滲ませ、優しい目で夫が抱える我が子を見つめる。
「名前、名前はどうする?」
興奮気味に夫が言った。
妻は微笑みながら答える。
「白く静かな子は、まるで冬の雪のようだから『雪』。泣いて元気のよい子は、春の訪れを感じさせる元気を持っているから『春』」
妻の言葉に、夫は満面の笑みで頷いた。
「素晴らしい名だ!!『雪』に、『春』。気に入った!!」
赤子二人を、真綿を詰めた柔らかな布に包むと、妻の顔両側に置く。妻は改めて赤子を交互に見る。
「はじめまして。雪、春。あなたたちは、この村を支えて行く『要(かなめ)』となる存在になるわ。強く、清らかに、そして元気に育ってね」
そう言った妻は、静かに目を閉じる。眠るように安らかな表情を浮かべて。
その妻が、再び目覚めることはなかった……。
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