家族、分離、異種

6/14
前へ
/161ページ
次へ
母様だって苦しかったはずだ、辛かったはずだ。…それが春の考えだったのだ。だから雪には同じ思いをしてほしくない。 「…水、汲んでくるね」 春は桶を持ち、逃げるように家を出る。家の裏にある井戸まで行くと、深く溜め息を漏らした。 「父様…やっぱり私には、父様の考えなんて分かんないよ…雪を独りにしたくないんだ…」 今いるはずのない父親に向けて一人呟く。直接なんて言えるわけがない。雪と同じくらい、春にとっては父親も大切な存在なのだ。 「また…何か言われたのか?」 ふと聞き慣れた声がし、声のした方を見る。 「あ…和夜、おかえり」 そこには重そうな麻袋を肩に背負って立っていた和夜がいた。 「ただいま。…何かあったのか?雪の名前が聞こえたが」 「さっきね、雪が来てたのよ。少しだけだったけど」 「えっ…雪が?」 和夜は目を見開いた。 さっき姿は見たが、まさか家に行くとは思わなかった。 「一体何を…」 「さっき村を出たこと、大婆様に私が怒られたじゃない?あれ、気にしてたみたい」 「雪らしいな…謝りに来たのか、わざわざ宮を抜け出して」 「抜け出したわけじゃないみたいだよ。早夜さんがついて来てたから。きっと大婆様には散歩に行くとでも言ったんじゃないかな」 「そうか…」 時呼に小言を言われることは雪も分かっていたはずなのに、それでも春に謝りに来た。そんな雪の優しさに、和夜の顔は自然と笑顔になっていた。 立場は変わろうとも、内面に違いはない。それが実感出来て、和夜は素直に嬉しかった。 そんな和夜を見て、春は和夜に気付かれないように一瞬悲しげに笑った。
/161ページ

最初のコメントを投稿しよう!

148人が本棚に入れています
本棚に追加