家族、分離、異種

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雪たちが宮に着くと、時呼が見るからに不機嫌な表情で入口に立っていた。 雪はそれに気付いていたが平然と時呼の横を過ぎる。 「そのような顔でいるものではないのでは?私は帰って来たのだからいいじゃないですか」 「長い散歩でございましたな…もしや『新経(あらたち)の家』に行かれておったのではありませぬか?」 『新経の家』とは、巫女の親族が代々住むとされる家のことだ。今は春と父、そして和夜が暮らしている家である。 時呼の言葉に一瞬眉を寄せた雪だが、平然を装い続けた。 「ご安心を。行ってません。私は自室にて休みます」 雪の嘘に感付きつつも時呼は「それならばよいのです」とだけ言って、宮の奥へと歩いて行った。 その背中が過ぎて行くのを見て、雪はホッと胸を撫で下ろした。 「早夜、あなたも本来の仕事に戻っていいよ。一人で部屋に行けるから」 「後程火鉢をお持ちしましょうか?」 「いいよ、私より早夜こそ暖まって?」 「そんなこと…では、温かい甘茶をお持ちします。お体が冷えましたでしょう」 「ありがとう早夜。でも早夜も冷えたでしょ?早夜は休んでて?そうだなぁ…輝夜丸に届けてもらおうかな」 「御意に。では輝夜丸に渡しておきます。ごゆっくりお休みくださいませ」 早夜に微笑みかけると、雪は自室に戻って行く。 自室に入ると、人の気配がないことを確認して僅かにホッとする。 阿婪が待っているままならどうしようと気掛かりだったからだ。 ずっと同じ場所にいる者でもない。それでも、もしかしたら…という不安があった。 きっと寝る前にまた来てくれるよね、阿婪…。 「雪巫女様、輝夜丸でございます。甘茶をお持ち致しました」 凛とした声が襖の向こうに聞こえる。雪は笑顔になり、自ら襖を開けた。 「輝夜丸っ」 雪の不意打ちに輝夜丸は目を丸くした。次に顔がみるみる紅潮していく。 「ゆ、雪巫女様っ!!」 「あはは♪驚いた?ごめんね♪さ、早く中に入って。一緒に甘茶飲みましょ」 「そ、そのようなこと出来ませぬっ!これは巫女様のみが飲むことの出来る貴重な物にございます。私などは…」 「私の言うこと、聞いてくれないの?」 雪の意地悪な笑顔に、輝夜丸は返答に困る。 そんな輝夜丸をしばらく見ていた雪が、急に吹き出して笑い出した。
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