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「あははっ!!輝夜丸面白ぉーい♪すっごく困った顔になってるんだもん♪」
「か、からかいが過ぎまする雪巫女様っ!!」
「ふふっ♪ごめんね?輝夜丸の困った顔、私なんだか好きみたい」
「そのようなことをおっしゃられても…雪巫女様は私が困ってしまうようなことばかりをおっしゃいます…」
「わざとだからね♪いつまでもそんなトコ座ってないで、中に入って?」
「はぁ…では、失礼致します」
雪はパタパタと駆けて、窓際に置かれた椅子に腰掛ける。雪がこの部屋にいる時の定位置だ。
柵がある窓から外を見つめて時間を過ごす。これが雪の日常であった。
雪の目の前まで来ると、輝夜丸はスッと座り、手に持っていた盆を置く。
輝夜丸が手慣れた様子で盆の上にある白い急須から、白い湯飲みに甘茶を注ぐ。ふんわりと立ち上ぼる湯気と甘い香りが、雪の鼻をくすぐった。
「どうぞお召し上がりくださいませ」
輝夜丸に湯飲みを差し出され、雪はそれを受け取った。湯飲みは心地よい温かさで、雪は小さく笑う。
「ありがと。湯飲み、温めてくれてたんだね」
「湯飲みが冷えていては、せっかくの甘茶も冷えましょう」
雪が湯飲みに口をつける。
一口含めば、口中は甘い香りに満ちた。甘茶が喉元を過ぎれば、その香りは喉の奥から鼻へと抜ける。
「…美味しい……」
身体がホゥッと温まる。自然と雪も笑顔になった。
輝夜丸はそれを見て微笑むと、雪が腰掛けた椅子の下にあった着物を雪の肩に包み掛ける。
「ありがとう、輝夜丸」
「雪巫女様がお喜びになっていただけるのなら、私はそれだけで幸せにございます」
「ありがとう…そう言ってもらえて嬉しい」
雪が甘茶を飲み終えると、輝夜丸に言った。
「ねぇ輝夜丸。『来夜(らいや)』くんは元気?」
雪の言葉に、輝夜丸の眉がピクリと揺れる。輝夜丸は少し声を低くして言った。
「雪巫女様がお気に病むことなどございませぬ」
「そう、ならよかった。まだ輝夜丸は来夜くんが嫌いなの?」
「…あやつは何も話しませんので。雪巫女様に尋ねられたことに関しても答えようとしないではありませんか」
「いいんだよ。名前を言ってくれただけいいと思うから。会いに行きたいなぁ…大婆様まだいらっしゃった?」
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