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「先程宮を出て行かれてましたが…外は黄昏時となっております故、宮内も冷えてまいりました。来夜の為に雪巫女様のお身体を冷やしてしまうのは…」
輝夜丸は話している最中、雪が悲しげに笑っていることに気付き、慌てて頭を下げた。
「も、申し訳ございません!!雪巫女様は来夜に対する差別的発言にお心を痛めると存じ上げていましたのに…っ」
「…ありがと、輝夜丸。仕方ない…ことなんだろうね」
雪は、ふと窓から外を眺めた。夕日が沈みゆく、薄暗い村の遥か遠くを見つめて呟く。
「来夜くんは…あの容姿だから、そう言われてしまうのはきっと…仕方ないことなんだよね。でも…私は……」
遠くを見つめる雪の瞳に哀しみが映り、輝夜丸は罪悪感に苛まれ拳を握り締める。
「……今の時分ならば、早夜も家へと戻った頃。宮には雪巫女様を今夜御守りする役に就きました私と、数人の宮仕えのみにございます」
「…輝夜丸…」
「参りましょう、来夜の元に。お連れ致します」
パァッと明るさを取り戻した笑顔で、雪は輝夜丸の手を握った。
「ありがとう…っ!!」
輝夜丸は満面の笑みでいる雪に頬を染めたが、内心複雑な心境でもあった。
来夜に会いたいと自分に懇願し、来夜の為に心を痛める雪の姿。
輝夜丸にとっては、雪が笑ってくれるならそれでいい。
それなのに、輝夜丸の内にある『嫉妬心』がそれを妨げて、雪が笑ってくれることが素直に喜べずにいた。
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