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「そう、よかった。輝夜丸に任せたのが正解だったんだね。ありがとう輝夜丸」
「いえ、私は雪巫女様の指示に従ったまでですので」
雪は歳が近いであろうことを考えて、同性でもある輝夜丸に来夜の世話係を申し付ける。
来夜が村に来て半年が経つが、未だに輝夜丸は来夜に対して嫉妬心を抱えていた。
もちろん、そんなこと雪が知る由もない。
「こんな場所でごめんね…寒いよね」
雪の言葉に来夜は首を左右に振った。
寒くない筈はない。布団はあるが囲炉裏もないこの部屋では、布団に身を包んでいたとしても冷えるだろう。外ほどの寒さはないにしても、隙間風は容赦なく室内を冷やしている。
火鉢などは、時呼の命令で与えてあげることが出来ない。来夜を信用していないからだ。「食料と寝床を用意しているだけでよいと思ってください」と言われれば、雪は何も言えなくなる。
雪が鉄格子を握ると、全身の熱が奪われていくように冷えていた。
申し訳ない気持ちで胸が苦しくなる。来夜に対して自分がしてあげていることは、間違っているのではないかと。
雪の鉄格子を握り締めた手に、フワリと来夜が手を重ねる。それにハッとしたように雪が俯いていた顔を上げると、いつの間にか立っていた来夜が雪を見下ろしていた。
「来夜くん…」
キュッと小さく力が込められた、来夜の手から伝わる温もり。来夜が言わんとしていることを、雪は感じ取った。
「……気にしないで、って…言ってくれてるの?」
来夜は頷き、優しい笑みを雪に向ける。
いつも無表情の来夜は、雪にだけはたまに笑顔を見せることがあった。
輝夜丸は二人の光景から目を背け、拳を握る。
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