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全てが白銀へと姿を変え、目に見える全てを眩い雪が覆う季節。
パ―――ン…
乾いた空に谺する一つの銃声。それと同時に、何もなかった真っ白な雪の上に、鳥が一羽落ちて来る。
小高い丘の、白い雪の上に広がる赤。その鳥に近付いてくる人影がある。
黒い髪と瞳、そして整った顔立ち。首元を包む毛編みの布、体を覆う毛皮、肩に掛けた一本の猟銃。
それは一人の青年だった。
もう動かない鳥を易々と拾いあげると、腰に提げていた麻袋に入れる。
「今日は、これくらいでいいだろう」
一人で呟く声は、白い息となり消えていく。
その時、近くでサクサクと雪を踏み締める音がした。その音は徐々に青年へと近付いてくる。
青年が音のする方を見るが、まだ姿は見えない。
丘の端から見えてくる人間の頭部。それが誰か察知した時、青年はその人に駆け寄った。
「何してる、こんな所まで来て…!!見つかったら大婆様に叱られるぞ!!」
青年が半ば怒るような口調で言った。
「だって、『雪』が見てみたいって言ったんだもん」
プクーッと頬を膨らませたのは、少し茶色い髪の少女だ。
「ごめんなさい…猟がどんなものか見てみたくて。『春』を怒らないで?」
その少女の後ろにいた少女が言った。この少女は鮮やかな漆黒の髪を持っている。
「怒ってるんじゃない、心配してるんだ。早く戻ろう、雪が『宮(みや)』を出てることがバレたら春だって叱られる」
青年の言葉に、漆黒の髪を持つ少女の顔が曇る。
「え~、いいじゃん少しくらい。雪だって退屈なんだから」
茶色い髪の少女が言った。
「いいの。ここまで来れたことも久しぶりだし。ありがとう春」
漆黒の髪の少女は微笑んで、元来た道を戻っていく。
「あ、雪っ!?」
茶色い髪の少女は、慌てて漆黒の髪の少女を追った。
青年は、その後ろ姿を見て、悔しそうに顔を歪ませた。
漆黒の髪を持つ少女の名は『雪巫女(ゆきみこ)』。
茶色い髪を持つ少女の名は『春巫女(はるみこ)』。
二人は当時―江戸時代としては珍しい双子の姉妹だった。
物静かで大和撫子を思わせる、腰まである漆黒の髪。僅かにこめかみの部分は短く、スッと横に揃えられている。雪のような白い肌を持つ、姉の『雪』。
明朗快活で運動神経もよい。腰まである少し茶色い髪は、両側の髪だけ顎までで揃えられ、後ろの髪は一つに束ねてある。血色のよい肌で健康優良といった、妹の『春』。
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