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翌朝―。
村は朝から騒々しかった。村人達の顔から窺えるのは、困惑や恐怖…。
「何事か、騒々しい」
時呼の声に村人達はハッとその方を見る。そしてすかさずサッと避けて道を開けた。
時呼の後ろには雪が立っていたからだ。
「何かあったんですか?」
雪の問い掛けに村人達は言葉を詰まらせて視線を泳がせる。
静寂を断ち切ったのは、一人の女の声だった。
「娘が…私の娘が姿を消したのです…っ」
その声の方を雪が見ると、流れる涙を拭うこともせず、着物を握り体を震わせる女がいた。
「姿を…消した?」
「加江、詳しく話すがよい」
「昨夜…寝るまでは床におりました…何らいつもと変わらない様子で…なのに朝起きた時には…っ!!」
「誰かが家屋に侵入したということか…何故気付かなかったのだ」
「物音など何も…!!神隠しにでもあったように、そこにはもう…っ、ぅああぁ…!!」
加江と呼ばれた女は泣き崩れて地面に蹲る。周りの村人は加江に言葉をかけてあげることが出来ない。
雪はそんな加江の姿を見て、唇を噛んだ。
「…大婆様、私に少し時間をください」
「な、何をなさられます?雪巫女様」
「神隠しなど、この村に存在させていいはずがありません。この村は母の結界により守られた場所。誰かの侵入など、認められませんから」
「ならば村人が誰かやったとでもおっしゃるのですか!?」
その時呼の言葉に村人達は混乱の声をあげる。
「そのように言っておりません。村の人達を纏めるのが大婆様のお役目、困惑させるような言動は慎んでください。私は村の人達を信じてます」
強い光を秘めた瞳で断言する雪に、周囲は息を飲む。
「私が捜しましょう。大婆様は村から人を誰一人出しませぬよう」
「何をおっしゃるのです!!相手が分からぬまま、雪巫女様を危険に晒すなど…っ」
「大婆様、事は一刻を争います」
「ならば探索には村の男達を…」
「なりません。大婆様もおっしゃったでしょ?相手が誰かも知らぬまま、闇雲に村の人達を外に出すわけにはいきません。何よりこれは、私にしか為せぬこと。これも飛暮の『要』としての役割ではないですか?」
真摯な雪の表情に、時呼は溜め息を吐く。
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