距離、想い、妖

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「…承知致しました。ですが雪巫女様のみを村より出すわけには参りません。和夜を連れて行かれませ。和夜の狩猟の腕には誰も敵いませぬ」 『和夜』の名前に雪の心は動揺する。しかし、それを表面に表すことはなかった。 「…分かりました」 雪の一言に、時呼は持っていた杖を強く地面に突き立てる。 「これより雪巫女様の命により、村からの外出は禁じる!!誰か和夜を宮に連れて参れ!!」 時呼の言葉にその場にいた村人達は深々と頭を下げた。 そんな村人達の姿に心痛めつつも、雪は宮へと足を進める。時呼も後を続いた。 雪の準備も整い、時呼に導かれて宮を出ると、そこには村人達が群がっていた。 その中の一人を確認し、雪の心臓は高鳴る。 「和夜、準備はよいな?」 時呼の呼び掛けに、和夜はフッと顔をあげる。 その顔は獣のように鋭く猛々しい。眼光だけで眩暈を感じてしまいそうになる。 これが…和夜……? ゾクッとする、心臓を射抜くような瞳。全身から殺気立つ空気。 こんな和夜、私は知らない…。これが…猟をする時の和夜の顔…。 「雪巫女様をその命に懸けても護り抜くのだ」 「はい、必ず」 二人のやり取りに、雪の心は複雑に揺れる。 哀しいのか、嬉しいのか。今の雪には分からない。 ふと、雪は誰かの視線に気付き、その方を見る。 村人達が群がる垣根の向こうから、ひっそりと息を潜めて、春が雪を見つめていた。 切ない、今にも泣き出しそうな笑顔で。 そんな春に、雪は優しく微笑んだ。口は小さく「大丈夫」と動く。 それに春は力強く頷いた。 言葉などなくても、触れなくても、互いの伝えたい想いだけは確かに伝わっているように。 「では、参ります」 雪の言葉に、村人達は村の出入り口までの道を開ける。 雪と和夜はその間を抜けて、踏み締めるように一歩一歩進んで行った。
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