距離、想い、妖

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村を出て暫く二人は無言で歩き続けた。 着いた先は小高い丘の上。村を見渡すことの出来る場所。雪と春、そして和夜が幼い時によく遊んだ場所だ。 「久しぶりだね、ここ来るの…和夜と二人なのも久しぶりだけど」 「…そうだな」 遠くを見据えて微笑む雪の横顔に、和夜の表情もどこか優しいものへと変わる。 うっすらと、村と辺りを染める残雪。この景色を二人で見たのは、もう何時の事だっただろう…。 「雪、何か手立てがあるのか?」 「もちろん。だからこそ私が捜すんだもん。本当は…誰も巻き込まずに済ませたかった」 「どういう意味だ?」 「和夜…これはきっと妖(あやかし)の類の仕業なの」 「妖…だと?」 和夜の表情は険しくなり、雪はそれに気付きながらも話を続ける。 「人間が為せる業じゃない。だから多分…」 「何を…妖の方が為せるものでもないだろ。村一帯は伽乃(とぎの)様の結界に守られているはずだ」 伽乃とは雪と春の母親の名。先代の巫女だ。 「母様は確かに凄い力を持っていたよ。でもね、死んでしまったら少なからず結界は弱まるもの。本当に僅かだけど…それを狙われていたのなら」 「お前は、今回神隠しなんてやってのけた妖が、前々からこの村に狙いを定めていたと思ってるのか?」 「うん。私達『巫女』の力は妖から見ても魅力的だと思う。狙われてたとしても不思議じゃない」 「何か思い当たる節でもあるみたいだな」 「『ある人』に教えてもらったの。江戸付近の村々から若い女ばかりが次々消えているらしいんだ」 和夜は目を見開いていく。 「なん、だと…?」 「発見されるのは…屍のみ。その屍は血が一滴残らず吸い取られているんだって」 雪の哀しみを宿した瞳は、足元の残雪を見つめる。 「江戸では『鬼』の仕業として、『血を吸う鬼』…『吸血鬼』と呼んで、お役人たちが連日連夜行方を捜している」 「雪…誰からそんなこと…」 「…『友達』、かな。色々な話を聞かせてくれた、私の大切な…」 そう呟く雪の脳裏には、昨夜のことが思い出された。
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