距離、想い、妖

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昨夜―…誰もが寝静まった時刻。 雪の部屋のみには煌々と蝋燭の灯が点いて、『二人』の影が揺れる。 「『吸血鬼』?」 雪が目を丸くして、相手の言葉を復唱した。 「そう。江戸の役人たちはそう呼んでたわ」 独特の色香と白粉の薫りを漂わせて、阿婪が微笑んだ。 「誰かが偶然女の悲鳴を聞いて駆け付けると、純白の髪をした人影が口から血を滴らせて姿を消したそうなの。倒れていた女は血を抜かれていた。そこからついた名前が『吸血鬼』」 「人を喰らう鬼か…昔、鬼の話は有名になってたらしいけど」 「羅生門の話ね。あれは都…平安と後に呼ばれる時代の話。その影響もあるのかしら」 「その吸血鬼って最近の話なの?」 「触書きがあるくらいだから最近じゃない?ここは外部との連絡手段を断ち切ってるから知らないのも無理ないわ」 「この村にも…来るんだろうね」 「どうしてそう思うの?」 「私の存在が…『そういう存在』だからだよ」 雪は哀しげに微笑む。 強い霊力は『人ではない者』を呼び寄せる。そのことを雪は理解していた。 阿婪はそんな雪を見て苦笑しつつ、雪の頭を撫でる。 「雪、私はあなたの未来が見えない。だからなのか分からないけど、この村の未来も見えない…でも、この村に本当に『吸血鬼』が来たなら、あなたしか解決策は見出だせないわ」 「ありがと、阿婪。大丈夫、私は村の人達を護る義務がある。その為の『力』のはずだからね。だから、阿婪が傷付いた顔をしないで?阿婪が未来を見ることが出来たとしても、防ぐ手立てはきっとなかった。あなたが気に病むことなんてないよ?」 雪の言葉に阿婪は目を丸くする。微笑む雪に、阿婪はフッと笑う。 「やっぱりあなたには敵わないわね…」 それから二人は顔を見合わせて、小さく笑いあった。
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