距離、想い、妖

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阿婪が言ってた『吸血鬼』のこと…遂に来たんだ、この村に。 雪は拳を握り締め、奥歯を噛み締める。 「雪…」 「和夜、少し私の『力』を解放するね。どれくらい拡げられるか分かんないけど、少しの間無防備になるんだ」 雪の言いたい事を汲み取り、和夜が銃を構える。 「大丈夫だ。お前には翔ぶ鳥が落とした羽根さえも近付けさせはしない」 純粋な輝きを持つ瞳で言われて、雪の心は甘く疼いた。 「ありがとう」 はにかんだ笑みを向ける雪に、和夜の体温は僅かに上昇する。 雪は目を閉じて、ゆっくりと深呼吸をする。髪の毛や爪先、身体の有りとあらゆるところに隙間なく空気を送り込むように。 自分の心臓の音が聞こえる。 小さく落ち着いた拍動に耳を澄ませ、身体がフワリと浮かぶような感覚に、雪の瞼は開かれていく。 和夜は雪の姿に息を飲んだ。 雪の全身が、蒼白く光っているからだ。 嫌な光りではない。清らかで研ぎ澄まされて、それでいてどこか安心してしまいそうな。蛍の光りに似ている。 雪が徐々に腕をあげていく。すると、それに合わせたように蒼白い光りは地面を伝い、フワッと拡がっていく。 光りは和夜の足下を通り過ぎたが、和夜には何も感じない。 雪の両腕が真横に伸びた時、雪の身体を、どこからともなく吹いた風が包む。 風が髪を舞い上がらせ、蒼白い光りは一層その強さを増した。 その時、雪の身体がビクンッ!と激しく揺れ、同時に目が見開かれる。すると風は止み、光りも消えた。 雪の顔が苦痛に歪み、フラッと身体が傾く。 「雪ッ!?」 すかさず和夜が雪を受け止める。雪は顔色悪く、和夜の腕の中でグッタリとしていた。 「大丈夫か!?」 「へ…いき。こんな、に…力を一気に、解放したの…初めて、だったから…」
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