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「お前のせいじゃない…裁かれるべきは妖だ。誰もお前を責めてはいない…皆お前に感謝している」
身体に染み込む和夜の優しさ…低い声は抱き寄せられた身体に伝わり、心地よく震える。
この腕に縋ってしまいたい。素直に自分の気持ちを言えたなら…。
何度そう思い、その思いを殺してきただろう。
雪はキュッと唇を噛むと、次に和夜から身体を離し、笑顔で見上げた。
「ありがとう、和夜」
いつものように笑う雪。しかしその笑顔の裏に隠してきた想いを、和夜は分かっている。
そうさせているのは、自分ということも…。
そんな雪の気持ちを無下にしない為に、和夜は苦笑して頷く。
「誰かに手伝ってもらわなきゃ清子さん運べないね」
「そうだな。村に一旦戻って誰か呼んで…」
「じゃあ、和夜が呼んできてもらえないかな?」
「何を言って…!!お前一人を置いて行けるわけない!!」
「早く村に戻れるのは和夜だもん。私のこと気遣いながらだと遅くなるし、獣に清子さん食べられちゃうから…誰かいないと」
「でも…ッ!!」
「大婆様に見つからないようにすれば怒られないよ。輝夜丸に頼めばきっと大丈夫。お願い和夜」
強い瞳、それなのに弱々しい口調。和夜は溜め息をついた。
「お前はズルいな…俺がお前からの『お願い』断れるわけないのに」
「ごめんね…」
俯いた雪の頭を、和夜が優しく撫でる。
「すぐに戻る。一歩も動くなよ」
「うん。ありがとう」
立ち上がるなり、和夜は村へと駆け出す。あっという間に和夜の姿は見えなくなった。
雪はいつまでもその背中を見送り、ふと目を閉じる。
「気付いてない、と思っているわけないですね?………そこにいるのは誰です」
鋭く言い放ち、雪はスッと目を開ける。
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