距離、想い、妖

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―――…… 「いい瞳をしている。怒りの炎を宿した…強き意志が込められたものだ」 「あなたの瞳は嫌な感じがするね。綺麗な色の筈なのに…見ていて吐き気がするよ」 「私のような種類…人間たちの言葉を借りるなら『吸血鬼』というものは、瞳に力があるのだ。見た人間を魅了し、自分の意思で自由に操れる。だが…巫女というものには、どうやら効かないようだがな」 「当たり前でしょ。私の身体に、妖の力は通用しない」 雪は、清子の身体に手を翳す。すると、身体に雪と同じような煙が纏わりついた。 「人間はそれを結界、と言うらしい」 「随分、人間社会に詳しいみたいだね」 「永く生きれば知恵も身に着くというものよ。案じずとも、血のない人間には興味がない。何より…」 妖はフッと足を進める。 と、思ったら、妖は既に雪のすぐ前に来ていたのだ。瞬きする間もない速さで、雪も捉えることが出来なかった。 怯んだ雪が後退りしようとしたが、雪の背中に冷たい腕が回り抱き寄せる。 「今の私には、汝ほど興味ある人間がいないのだ」 空いていた片手が、雪の顎を掴み、強引に顔を自分に向けさせる。 「もう一度聞こう。名を何と申す?美しく気高き、気丈な巫女よ」 雪は、自分を微笑みながら見つめる妖を睨み付けたまま、毅然とした口調で言う。 「人間は『人に名を聞く時は、まず自らが名乗ること』と言う。こんな無礼が、妖の礼儀なの?」 そんな雪の言葉に、驚いた表情を見せた妖だったが、すぐにフッと笑顔に変わる。 「これは失礼」 雪から身体を離し、妖は胸に手を当てて小さく身体を前屈みにした。 「我が名は『銀夜(ぎんや)』。『銀(しろがね)の夜』と申す者。巫女殿、そなたの名は?」 「………雪。銀夜、あなたの目的は何?私の血?」 「始めはそうであったがな、気が変わった」 「えっ…?」
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