少女、力、運命

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そう言って春は俯いた。青年もそれを見て、同じように俯く。 青年の名は『和夜』。 村一番の猟の腕を持ち、その整った顔立ちから、和夜に密かに想いを寄せる女は少なくない。 幼くして両親を雪崩により失い、物心ついた和夜を育てたのが、雪と春の両親であった。雪と春を産み、間も無く亡くなった母の代わりに、父が三人を育ててきた。そのため、三人はまるで兄妹のように育ち暮らしてきた。 雪が、十歳を迎えるまでは…。 三人が暮らす『飛暮村』は、古より『巫女』の力によって守られ、繁栄を遂げてきた村であった。 巫女の家系は代々『娘』しか授からず、その娘は巫女として村を支えるため、強い霊力を持って生まれる。基本的には『宮』と呼ばれる朱色の神社のような場所で暮らすことが決め事で、新しい命を授かれば、巫女はお役御免となり、出産すると間も無く逝去してしまう。 『巫女』は、その村での絶対的権力を約束され、村の『要』となり、生涯を捧げることを生まれた瞬間より定められるのだ。 雪と春の母もまた、強い霊力を持った巫女として努めていた。その母の力により、村には強力な結界が施され、外部の人間からは村が見えなくなった。戦国乱世を生き抜き、村からの被害者は一人もいない。 安息の日々に、今まで巫女の歴史にない『異例』な事態が起こる。巫女の血を受け継ぐ娘が二人生まれたことだ。 村の実権を巫女の次に握る『大婆様』と皆に呼ばれる老婆・時呼(ときこ)は、その事態に一つの提案を村人に告げた。 《巫女としての力が目覚めるとされる十の歳を二人が迎えるまで待とう。そして巫女としての力が目覚めた娘を、我が村の『要』とする》 それから十年の時が経ち、二人が誕生した日を迎え、祝いの宴が行われたその日。 一羽の怪我を負った鳥に手を翳し、一瞬にして再び空を翔ぶ力を与えた者……それが雪だった。
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