少女、力、運命

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それから雪は『宮』での生活を強いられ、村内での外出もままならないほどとなった。隔離された空間には、特定の人間しか入ることが許されないような状況だ。 一方春には、霊力が全くなかった。巫女家系にも関わらず、驚くほど普通の人間と変わりない。それが双子であるはずの二人にある、大きな違いだった。 そんな状況に一番戸惑ったのは、和夜であった。今まで雪と春を平等に扱ってきた、大婆様をはじめとする村人たちの態度が、雪が巫女になった瞬間、手の平を返すように変わったからである。 兄妹のようだった三人の間に、初めて『溝』が出来た。 今年で、そんな生活は七年を迎え、もうすぐ雪と春の十七の誕生日となる。 雪は宮の中から外を眺め、一人溜め息を吐いた。 いきなり態度を変えて、幼い自分を讃える村人たち。訳も分からずに巫女となった十歳の時を振り返り、グッと拳を握る。 「春だって…私と血を同じくする妹なのに…」 自分は何不自由ない生活が出来る宮の中にいて、春は村人と同じ土壁の薄寒い家で暮らしている。 それが雪には、哀れにも感じ、羨ましくも思えた。 「雪巫女様。湯船の用意が整いました」 襖の向こうから聞き慣れた声がする。その声に、雪は淡く微笑んだ。 「輝夜丸(きよまる)、輝夜丸でしょ?入っておいで。大婆様ならいないから」 雪が襖に向けてそう言うと、暫くして襖がゆっくり開けられた。 襖の向こうには申し訳なさそうに伏し目がちで、一人の少年が座っていた。 歳は雪と同じくらい。長い髪を高い位置で一つに束ね、白い着物に藍色の袴を着ている。 少年の姿を確認すると、雪は微笑みかけ、手招きをする。 「来て、輝夜丸」 輝夜丸と呼ばれた少年は、チラッと雪を見て、怖々と立ち上がり歩み寄る。雪の目の前まで行くと、正座をした。 「凛としてきたね。やっぱり男の方が藍の袴は似合う」 「もったいないお言葉…このように雪巫女様の『御付き』が出来るのも、雪巫女様が私にお情けをかけてくれましたからこそです」 「その話し方、大婆様に習ったのね。『お情け』なんて言わないで?私は道に倒れていたあなたの怪我を癒しただけよ?」
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