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「抹林、ありがとう……」
『うん。……でもあたしよりもまず、お礼言わなきゃいけない相手がいるでしょ?』
「え?」
『蛍くん、きっと隣にいるんでしょ?』
やっぱり蛍がいたこと、気付いてたんだ。
隣を見てみると、蛍は呑気に懐中電灯のライトを点滅させて遊んでいる。
ゆっくり、明かりを点けたり消したり。
それに合わせて、周囲のホタル達も自らの灯を点滅させ応えてくる。
毎年見せてくれる、蛍の十八番だ。
夜空に浮かぶ星と、水面を滑るように飛ぶホタル達が、まるで大きなプラネタリウムにいるような気分にさせてくれる。
「すごっ……」
思わず息を呑むと、してやったり顔で蛍がニヤニヤしている。……なんか少し悔しい。
「あっそうだ! 来年は抹林も一緒に来ようよー」
『……ううん。あたしは、行かないよ』
今日1番優しい声で、抹林はわたしの提案を断った。
抹林はどこか、わたしと蛍の中に入ってくることを遠慮している部分がある。
確かにわたしと蛍は抹林より付き合いが長い。だけど別に気にしなくていいのに。蛍と同じくらい……ううん、蛍以上に、わたしは抹林のこと大好きなのに。
『お誕生日おめでとうって、伝えておいて』
抹林が静かにそう呟いた後、返事をする間もなく電話は切られてしまった。
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