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「終わった?」
「うん。……ありがとう、ございました」
「どういたしましてー」
携帯を返すと、蛍は勝ち誇ったように踏ん反り返った。
「お礼はタコ焼きでいいや」なんて言って笑ってる。まあ今日は蛍の誕生日だし、めちゃくちゃお世話になっちゃったし、素直に買っておこう。
「今すぐ買いに行く?」
「んー……もう少し」
立ち上がりかけたわたしを、蛍が前を向いたまま片手で押さえた。
もう片方の手は、やっぱり懐中電灯でホタルと交信を続けている。
蛍に合わせて、ホタル達は光を返してくる。
相手に信号を送れば、それはちゃんと自分に返ってくるんだと、そんな簡単なことを、わたしはつい忘れがちになってしまうんだ。
――敵わないなあ、こいつには。
「抹林がね、『お誕生日おめでとう』だって」
「おう」
抹林からの伝言を伝えると、蛍は「仲直りできてよかったな」なんて笑った。
「……それで? お前からは、何も無いわけ?」
「お誕生日、おめでとう。いつもありがとう」
「いやいや、俺が欲しいのは言葉じゃなくて……」
「プレゼントは、ひよちゃんプレミアムスマイル☆です!」
「…………」
「た、タコ焼き買ってくるね!」
――これだけお世話になったのに、家にプレゼントを忘れた……なんて、とても言えませんでした、はい。
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