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「姉ちゃーん……ゲ。またソレやってんのかよ……」
ノックも無しに勢いよく開けられたドアから、スウェット姿の弟がひょっこり顔を出した。
わたしを見ると、心底うんざりしたような顔をして、1歩後ずさりする。
……何だよ、引くなよ。
「当然。あと5回はクリアーしてやるんだから」
わたしはそう宣言して、もう1度コントローラーを握りしめ、視線を画面に向ける。
背後で、深い溜め息が聞こえた。
「で? 何の用?」
「あ、そうだった。お母さんが、牛乳買って来いって」
「今から? もう何処もお店閉まってるでしょ。っていうか、わたし今手が離せないから、ひーくんが行きなよ」
適当にあしらいながら答える。もちろん、視線はテレビ画面から離さずに。
「ひーくんて呼ぶなって!」
日向は、不機嫌そうに眉間に皺をよせた。お年頃の男子は複雑らしく、わたしが『ひーくん』と呼ぶといつも嫌そうな顔をする。
「ていうか! 俺、受験生。そこの出無精女、1日5時間はゲームに励む超暇人」
その辺のコンビニにでも行って来い、と手渡される牛乳代。なんて態度のでかい弟なんだ……と思いつつ、渡された金額が少し多めなことに気付いた。
「マロの散歩ついでに買ってくればいいじゃん」
……しょうがないか。お釣りでアイスでも買おう。
きちんとセーブを済ませてから、渋々電源を切り、泣く泣く腰を上げる。
「マロも行こうね」
そう猫撫で声を出して、リードを持つ。
横で寝そべっていたマロは、「にゃあ」と一声、面倒臭そうに返事をした。
「……姉ちゃんさー、早く彼氏作った方がいいよ、マジで」
部屋中に散乱したゲームソフトを見たらしく、後ろから日向がそう声を掛けてくる。
うるさい、ませガキめ。
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