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――あ。 慌てて、向かい側の書店に目を向ける。 そしてふいに見つけた、彼の姿。 「藤森くん……!」 喜びのあまり、思わず独り言を漏らしていた。 ――クラスメートの藤森邦海(ふじもりくにみ)くん。わたしが、今1番気になってる人。 わたしの家は学校から駅2個分離れた所にある。こんな所でこんな時間に会えるなんて、思ってもみなかった。 あそこの書店、閉店は10時だっけかな。まだ明るい店内で、藤森くんはなにやら真剣に本を選んでいた。 ……もっと近くであの綺麗な顔を拝みたい! 邪念に支配されたわたしは、マロを抱いたまま走って道路を渡った。 どんな本を読んでいるのか気になったけど、本屋はペット入店禁止。……入れない。 仕方なく、店の外から藤森くんを観察する。気持ち悪いのは、重々承知だ。 いいよね、ちゃんと本を読む人ってカッコイイよね。 時々教室で、1人席に座って読書している藤森くんの姿を思い出す。 ああ、知的萌え。 ……やっぱり何の本を買うのか気になる。藤森くんがどんな本を読むのかわかれば、それで話をするきっかけも掴めるかもしれない。 数冊の本を抱えて、藤森くんがレジに来た。 ――チャンス!! 今が絶好のタイミングだと思い、レジを打つお姉さんが手に取った本を、凝視する。1冊めは、なんだか難しそうな分厚い本。2冊めは、参考書。3冊めは、薄めのライトノベル。 ……そう、問題は3冊めだった。
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