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お姉さんがライトノベルを手に取ると、藤森くんは少し居心地悪そうに俯いた。
お姉さんがなんか笑顔で話し掛けると、微妙に頬を赤らめて頷いている。
『ブックカバーはお付けしますか?』
『……お願いします』
まあきっとそんな所だろう。
……ああ、わたしもあの書店でバイトしよっかなあ。なんて考えた、その時だった。
カバーを付ける瞬間、少しだけそのライトノベルの表紙が見えた。
男と男、片方は少し強気そうなお兄さんタイプで、もう片方は頬を赤らめている可愛い少年で、なんとゆーか、抱き合ってまして、裸で……。
うん、まさかね。一瞬のことだったし、見間違えかも、うん。気のせいだ、きっと。
あはは、それにしても、こんな所で藤森くんの姿を見れるなんて思わなかった。お母さんに感謝しなきゃ。
訳のわからない思考回路で、必死に今見間違えた表紙を頭から追い払う。……絶対、見間違えたに決まってる、ありえないもん。
見るからにルンルンしながら書店を出て行く藤森くんを、わたしは少し呆然としたまま見送った。
月が悔しいほど綺麗な、初夏の夜のことだった――。
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