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力説する私を尻目に、望遠鏡をいじっていた彼の手が止まった。
星を見に行きたいって言ったのは私だし
手伝いもしなかったのは悪かったかな、と少しだけ反省していると、
彼は私を手招いた。
豆だらけだけど、あったかみのある手。
「ほら、お望み通り話題のT-68UMA星雲に合わせてあげたよ」
差し伸べられた手は、いつもよりなんだか大人びていて。
ちょっぴりドキドキしながら私は彼の手を握ろうとした。
「あのさ、晶。俺――」
彼が口を開く。
何?
何故だかノイズがかかって聞こえない。
ノイズは彼の声だけじゃなく、周りの音、景色をも浸食していく。
それは彼の姿も例外じゃなくて。
「晃!」
私の手が彼に触れる前に、
晃は周りの景色ごと消えてしまった。
(どういう事?
一体何が起こったの?)
これは夢の続きじゃない。
だって、私は現実にこんな事があったのを覚えているし、この後の出来事を知っている。
なにより、夢が無くなってしまった、という感覚が私の身体を埋め尽していた。
信じられない事態に、私は真っ白な空間の中で立ち尽くす。
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