「夢泥棒」――1,アキラの今

3/4
前へ
/88ページ
次へ
力説する私を尻目に、望遠鏡をいじっていた彼の手が止まった。 星を見に行きたいって言ったのは私だし 手伝いもしなかったのは悪かったかな、と少しだけ反省していると、 彼は私を手招いた。 豆だらけだけど、あったかみのある手。 「ほら、お望み通り話題のT-68UMA星雲に合わせてあげたよ」 差し伸べられた手は、いつもよりなんだか大人びていて。 ちょっぴりドキドキしながら私は彼の手を握ろうとした。 「あのさ、晶。俺――」 彼が口を開く。 何? 何故だかノイズがかかって聞こえない。 ノイズは彼の声だけじゃなく、周りの音、景色をも浸食していく。 それは彼の姿も例外じゃなくて。 「晃!」 私の手が彼に触れる前に、 晃は周りの景色ごと消えてしまった。 (どういう事? 一体何が起こったの?) これは夢の続きじゃない。 だって、私は現実にこんな事があったのを覚えているし、この後の出来事を知っている。 なにより、夢が無くなってしまった、という感覚が私の身体を埋め尽していた。 信じられない事態に、私は真っ白な空間の中で立ち尽くす。
/88ページ

最初のコメントを投稿しよう!

10人が本棚に入れています
本棚に追加