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暗い。
一筋の光りも射さない洞穴その最深に彼はいた。色などわからぬハズの闇の中、それでもなお彼の身体は鈍く銀色に光を放っていた。深い深いまどろみに身を任せたんに闇の中で寝続ける…最強の種族である竜の一族にのみ許された権利を、彼は生まれて今まで思う存分に行使していた。
リン…
音ではない意識に響くなにかに、彼は幾百年か振りに四肢に力を込める。寝ぼけたままの緑眼には、普通の生き物では見えないハズの景色が展開された。
そこには一人の血にまみれた少年がいた。
焼き印をなされ、おそらくはこの穴を落とされて来たのであろうハーフエルフの少年は幾百年か振りの自分への供物なのであろうと彼は思った。古の契約に基づいてまたなにか喚びだしがかけられた、ということか?
と。
「…ヒィゥ..」
驚いたことにこの供物は生きたままここに辿り着いたようだ。地下2000mの彼の巣に息をしたまま辿り着いた者は、他のドラゴンといえど未だかつていない。
「おもしろい。」
彼は思わず呟いていた。あまりにも強く生まれすぎた故の宿命で何物にも興味をもつことのなかった彼は、眼の前にはいつくばる小さな生き物に生まれて初めて興味を持った。そして一雫の涙を、彼の者に与えた。
「うぁあぁああ」
少年は発光し爆ぜかねないほどの動きを見せた。しかし傷口も、焼き印もたちどころにその身から引いてゆく。
「脆く、弱き我らが旧き友の末裔よ。我は始まりの六始竜が弍『風を創りし者カルマナ』である。古の契約は一先ず置き、ゆるりと傷を治されぃ。そして癒えたら起こせ。聞こえたな?」
激しい痛みの中、微かに頷く少年をおそらくは見るより早く彼は瞳を綴じた。
あとに響くは少年のうめき声のみとなった洞窟は、それですらも飲み込む漆黒の闇に一片の揺らぎも見せず再び眠りについた。
こうして新たな、始まりの夜はシンシンと更けていった。世界を変える程の出会いを、まだ誰に知られることもないままに…
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