短編

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病室を片付けていた父と私。 黙々と母の荷物を袋に詰めていた私の目に留まったのは、小さな木の箱だった。 そっと箱を開けてみると、そこにはあの時の蝶々が横たわっていた。 あの時の輝きなんて忘れたように、色褪せてしまった羽をたたんで……ただ、静かに。 私が帰った後、母はゴミ箱から蝶々の体を救い出したのだろう。母は不器用だったから、羽が微妙にズレたところでくっつけてあった。 そしてその亡骸の横には小さな紙が添えられていて、私はそれを手にとって読んでみる。 『大切な命。無邪気に奪ってしまって申し訳ありません』 震えて歪んでる字。所々に水滴の後もある。 それを読んだ私は――唐突に理解した。 あの頃の自分の行いが、どれほどに残酷な事だったのかを。 残り少ない命の前で、若々しく輝いていた命を奪った、その罪深さを。 私は蝶々が横たわる木の棺を土に埋め、小さな墓を作った。 一緒に埋めた母の手紙の隅の方に、 『ごめんなさい』 そう一言書き加えて。 メッセージは蝶々だけじゃなく、母にも届くと良いな。 そう願った私の傍を、美しい羽をした蝶々がひらり、ふわりと舞い踊った。  (6/19 何となく思いついた作品)
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