幼き日

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「そういえば友枝は? 朝から見かけないけど。」 草矢は書物の山を平然と運びながら尋ねた。 「あー…。 たぶん茂道のとこ。」 先程の漢詩の紙をぐしゃぐしゃに丸めながら正太が答えた。 「…まぁそうだとは思ったけど。 あー、友枝がいないとつまんねーなぁ。」 そう言いながらどさっと部屋の隅に本を置く。 正太は一番上の古びた書を手に取ってめくりながら、宥めるような口調で返事をした。 「俺がいるだろ。」 「正太なんかいっつも難しげな書ばっかり読んでんじゃん。…弓とかも弱いし。」 「『学んだ後にこれを復習する、なんて嬉しいことだろう。』 草矢も読めば。」 「ハイハイ。孔子の教えはもう良いって。聞き飽きたー。 そんなん役に立つんか?」 「わからん。けど知っといて損はないように思う。 それにこう言った本が書かれた頃は今の時代によく似てる。 戦、戦でごった返しのこんな世だからこそ徳とか、忠とか、信とかいうものがきっと大事なんだよ。」 「ぐー…。」 「寝ーるーなー。」 ガコッ と音がする。 壁に寄り掛かっていた草矢が頭を抱えて正太を見上げた。 ため息一つ付き、正太は草矢の横に座った。 「お前が言う通り、俺は弓が弱い。 おまけに足も遅いし力もない。 …先のこととは言え、戦場で将軍足る活躍ができるようになるとはとても思えん。 だからせめて、政(マツリゴト)ではこの国をきちんとした方向へ引っ張ってゆけるようになりたいんだ。 …だからそのためにできることは、何でもしておきたいんだよ。」 隣で聞いていた草矢は一瞬フッと微笑んだが、すぐに逆三角の目になった。 バシッ 「痛っ…」 「たっはー。さっきのお返しッ だいたい話が長いし訳分からん。」 「何!?」 ふざけていた草矢は急に怖いくらい真剣な顔になった。 「正太…お前本気で、戦の出来ないヤツが将軍やれると思うのか。」
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