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「戦の出来ないヤツが将軍やれると思うのか。」
そう言われて正太は膿んだ傷口に針が刺さるような心地がした。
今まで誰も正太の前では口に出して言わなかったことだ。
しかし自分の体の弱さが家臣にとって、凛国にとって、大きな不安材料であることに正太自身も気付いていた。
…気付いていながら気付いていないふりをしていた。
政治さえきちんと出来ていれば、自分が戦場へ赴かずとも信頼出来る者を代わりに武将に立てればいい、
そう思うことにしていた。
しかしそれでは駄目なのだ。
この時代において武と政は一体であり、戦を極めずに統治は有り得ない。
零落した貴族と何ら変わりはなく、武力がないものは簡単に追いやられる時代だ。
正太の存在はこの意味において、ひどく危ういものだった。
「正太…お前がいつかこの国の武将となることは忘れるなよ…。
苦しくても。
…まぁ馬に長時間乗れさえするようになれば、お前が動くように俺が動いてやるから。」
「草矢…」
草矢が一瞬ハッとして、それからいつものふざけた調子で言った。
「フッ。『我が将軍』を守るのも俺達の仕事の一つだからな!
父上が狩りに連れてってくれる約束だったんだ。俺そろそろ帰るわー。」
言い終わらないうちには襖に手をかけ、ガラガラと音を立て部屋から出た。
戸を閉め忘れたままひらひら手を降り去っていく兄弟の後ろ姿を、正太はいつまでも見送った。
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