トモエ

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―祇園精舎の鐘の声、諸行無常の響きあり―… 友枝は簾からわずかに零れる朝日に、お気に入りの絵巻物を照らして見入った。 (平家物語なら話は覚えているし、文章の方を目で追えば字の勉強になる) …ところが実際はあまり量がいかず、ついつい絵巻の方に夢中になっていた。 遠い昔の戦を生きたという多くの兵(つわもの)たちの姿が鮮やかで力強く描かれている。 絵巻をくるくる回せば、とうに終わったはずの時が確かに息づき、ゆっくりと動き出す。 友枝はそれに見入るうちにいつしか眠りに落ちた。 …… ……… (ここは?) 友枝は馬に乗る武者たちの列の中を歩いていた。 松林の中を縫うようにして、全身を鎧に包まれ恐い顔をした武者たちの列は前にも後ろにも途切れることなく続いている。 見上げると一際立派な漆塗りの兜を着けた顔が、何やら思い詰めた表情で前方を睨んでいた。 (…だれ……?) 友枝は城内では恐い者知らずなお転婆娘だが、不穏で張り詰めた空気の中さすがに不安になり小走りになる。 べちゃっ ぬかるみに足を取られて転んでしまった。 濡れた赤土が白い袴にべっとりと付いた。 「大丈夫か」 顔を上げると優しい顔があった。 たおやかな黒髪を肩の下で束ね、美しい絹織の着物の上に金と朱色の鎧を纏った女が立っていた。 ふわっと甘い香りが漂う。 凛々しくも柔らかな雰囲気が、彼女の整った顔立ちを一層美しくみせている。 友枝は返事も立ち上がることもしばし忘れて見とれた。 「どうした。立てるか。」 女は膝を曲げ、友枝に向かって手を差し出した。 その透き通るように白くてしっとりとした手を掴むと意外にもがっしりとして固く、友枝の躯は一本の手のみに支えられて軽やかに浮いた。 そのままひょいと馬に乗せられて、手綱を握る彼女の腕の中に納まった。 「ここは危険だ。近くの村まで送ってやるからここにしっかりつかまっていろ。 ……!!」 地響きにも似た音が徐々に大きくなる。 凛とした女武者は舌打ちをして、馬の手綱を引いて鼻先を地響きの方へと向けた。 「……村に送るのは後だ。」
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