トモエ

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「ともえさま! ……友枝様!!」 少女は目を開くと、自分を覗き込む見慣れた顔を見上げて目をしばたたいた。 。 よく物語を読んで聞かせてくれる若い侍女と、怖い顔をしたしずが立っている。 「しず、あやめ……。」 あやめと呼ばれた侍女は滑らかで柔らかな指で寝起きの髪を撫でるように掻き分けてやり、その顔を心配そうに覗き込んだ。 「何やらうなされておりましたよ。 何の夢をご覧になっていたのですか。」 あやめが心配そうに尋ねると、しずの小言がそれに続く。 「全く。絵巻の上で寝るなんて。 破れでもしたらどうするんですか。」 急いで起き上がり見下ろすと、たしかに朝眺めていたはずの絵巻がそこにあった。 「……あれは夢――? ……!」 兵たちの戦う絵巻の中に、美しい女武士の姿があった。 「ねぇ、この人ってたしか――」 「――<木曾殿の最期>ですね。 この武人は友枝様と同じ呼び名なのですよ。」 あやめが簾を上げると、朝日が差し込み部屋が明るくなった。 縁側から手の届く所にある木の葉一枚と小枝を採って来る。 小枝でなぞると葉に字が浮かび上がった。 「漢字はこう。 一文字で巴(トモエ)です。」 ――木曾殿の最期は消えてゆく運命にある兵たちが己が運命を受け入れ、壮絶な負け戦を飾る話だ。 巴は木曾殿が連れていた凄腕の女武士で、最後まで戦に残るも主の命令により戦落ちする。戦落ちした時の彼女は何を思っていただろう。 女であるがゆえ武士として、主と共に散ることを許されなかった己が運命を恨んだだろうか。 戦落ちした後の彼女はどのように生きたのだろうか。 それはどこにも記されていなかった。
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