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「青土でまた一揆だと!?」
「――と言っても取るに足らない規模のようですが。
あの国は相次ぐ戦で端の農村ほど疲弊しているようですから。……そんな百姓の不満を煽り、利用して成り上がろうとする輩も多いようですね。」
三日月と虫の音を肴に、晩酌を交わす二人がいた。
凛州の大名、永良隆元と家臣の吉倉茂遠である。
「確かに領土拡大の早さには目を見張るものがありますが、田畑も農繁期もなりふり構わず戦をするやり方は、考えものです。
あのような方法で領土を荒らされては堪ったものではありません。」
「そうだな――。」
夜の風は冬の匂いをかすかにはらみながら、星空から降り庭、城の中を静かにかけてゆく。
虫たちの最期の唄がどこまでも澄み渡り、響いていた。
時折その旋律に沿うように揺れる、ろうそくの明かりが二人の姿を僅かに照らした。
質素な一枚着の下から、鎌倉の時代に彫られたという力強い武神のような体を覗かせるのは大名、隆元である。
その目の奥には虎をも射るかという精彩な光が宿っている。
少しずんぐりとした巨体の背を丸めているのは家臣、茂遠である。
無風の湖のように静かな瞳には全てを優しく包むような柔らかな意志が見える。
隆元と茂道は上下関係はあれど数々の戦も協力して乗り越えてきた戦友だった。
永良家と吉倉家はもともとは一つ。守護代椎良の分家だ。
だからこそ両家の結び付きは深かった。
それを象徴するように隆元と茂遠も子供の頃から、兄弟のように仲がよかった。
そして今二人の間には、ただ夜の優しい沈黙が横たわっていた。
それは深い信頼と親愛の情にもはや言葉はいらぬということを知り、あえて黙っているようでもあった。
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