幼き日

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友枝は茂道の眼をまっすぐに見つめた。 「ろくにぃ…私も戦いたい。 私も父上や皆のように、このくにを守るための戦いがしたいんだ。」 茂道は目を細めて微笑んだ。 「まずは健やかに成長なさることです。 貴女はまだ多くのことを学ばなければならない。 貴女だけが果たすことのできる大事な大事な仕事だってある。 武術はそれらを十分学んでからでも遅くはないでしょう。」 友枝は怪訝な顔をした。 「一体、その大事な仕事とは何なのだ。」 「戦いで人を傷つけることなく、たくさんのものを守ることができる仕事です。」 「??」 「今はまだ私の言っている意味がわからなくても良いのです。」 そう言う茂道からは何の表情も窺うことができない。 「ただ、その仕事を果たすには友枝様に頑張っていただかなくてはいけないことがあります。」 「…何だ。」 緊張した声で聞く友枝に、茂道は無表情のまま微笑み返した。 「教養を磨くことですよ。」 「何!!?」 茂道はすっくと立ち上がり、大袈裟に澄ました顔になった。 「友枝様は作法や読み書きの時間をあまり好んでらっしゃらないようですね。 明日からはもっと取り組まなければいけません。」 「……。」 急に嫌味な口調になる茂道。 友枝は苦虫を噛み潰したような顔をした。 「さ、暗くならないうちに急いで帰りましょう。」 いつもの笑顔で微笑みかけられ、友枝は山の向こうで沈みかけている朱色の夕日を認めた。 「友枝様! どこにおいでになっていたのです!? 若様も心配しておりましたよ。」 帰るなりしずが駆け寄ってきた。 ハッと友枝の後ろにいる少年を見つけ一瞥し、友枝の肩にサッと手を添えた。 「サ、参りましょう。 ――夕餉の支度が出来ておりますよ。」 しずにぐいぐい引っ張られる友枝。 後ろを向いて苦笑すると、茂道がちょっと困ったような笑顔で見送った。 ――そうして夕闇の中、 二人の見えなくなったその先を、茂道は緊張した面持ちで見つめていた。
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