華火

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掴もうと伸ばした瞬間に姉の姿は風に消えた。 掴み損ねた自らの手を眺めていると違う誰かが私の隣に座った。 「おばーちゃーんなにしてんの?」 見れば孫の都子だった。後ろには娘のめぐみもいた。 そういえば今日は2人が帰郷してくる日だった。 「あら、いらっしゃい。お姉さんのことを思い出してたんだよ」 「お姉さん?」 都子は興味深そうに尋ねてきた。 「そう。物知りで5個上のお姉さんだったんだけどね、とても強くて…とても…美しい人だったのよ」 目を細めると当時のことが蘇ってくるようだった。 戦争、という戦火を凌ぎつつ家族5人で支え合った日々。 姉はいつも体の弱い私を気遣ってくれていた。 「へー!今どこにいる人なの?」 「60年も前に天国に行ったきり帰ってこないわ」 そういうと都子は申し訳なさそうな顔をした。 「ぁ…そうなんだ…」 「気にすることないわよ。いつも明るい人だったわ」 「へぇー…」 指折り数えてむっつとちょっと。 もうそんなに経ったのか。 思わずしみじみしてしまった。 中学にも行けずに働きに出掛けた先でキノコ雲にやられてしまった姉。 最期の瞬間まで笑っていたのだと信じたい。 「…さて、お昼ご飯でも食べましょう。夜は花火を見にいこうね」 「やったー!!」 『しーちゃん』 振り向けば18歳の姿をした姉が手を振っていた。笑顔で。 今日は年に一度の花火大会。 亡くなった全ての方への餞の日。 きっと彼女も言いたくなったのだろう。 命は華のように一瞬で燃えてしまうのだと。 一瞬でも命の儚さを考えて欲しいと。 END
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