春風

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春風

勉強した? 明日の用意は出来てる? もう塾に行く時間でしょ! 早くお風呂入って明日の予習しなさい! いつまでご飯食べてるの? ……そして、また聞こえてくる「勉強しなさい!」 ---- 次々と出される言葉の数々 そんな言葉に毎日翻弄されながらの生活…… これが “どこの家も同じ、普通の事なんだ” と思いながら、親が決めた時間割を“当然の事”として毎日を過ごしていた……。 今日は、いつものスケジュールにも時間に余裕がある そう、週に1度だけ自由な時間が“少し“持てる日 そんな貴重な日だからと言って“遊ぶ”なんて予定を勝手に組む事は許されていない…… 学校から戻ると、待ち構えて居たように母親に呼び止められ、すぐさま買い物へと連れ出される…… まぁ机に向かっているよりはマシと言った所だ 歩いて15分程、駅の近くにあるこの地域では1番大きなデパートに着くと、食品売り場から家庭用品売り場へと流れ、決めていたのであろう商品を買い袋詰め “荷物を持つのは当たり前でしょ!” なんて事を言われる前に、自分から買い物袋へと手を伸ばし、それを両手にぶら下げた。 この動作も習慣ではなく、自分に降り掛かるであろう火の粉、そのリスクを自分なりに回避する為に覚えた最善の行動だ デパートから家までの道のりは、手に掛かる重さで距離を遠く感じさせる。 下げたビニール袋は歩く時間と共に何倍にも重く感じるようになり、何度も持ち直し、片手にまとめてては片手を休めたりと、どうにか負担を緩和させようと苦戦をするが、決して立ち止まるような事はしない……いや、出来ない [この坂を下り、あの角を右へと曲がれば……] [あと少し……もう少し!] 心で何度もそう思いながら、手の痛みをごまかそうとするが、指先の痛みに加え、肩にも掛かる荷物の重さに限界が……顔も痛みで歪んで来た。 歩を進める母親の隣へと並ぶが、会話をする余裕もなく、ただ歯を食いしばりながら、黙々と俯きながら歩みを早めるのが精一杯 そんな時 ……バタッドタッ……ガサッ! 突然に耳に入るこの音、そして隣に居たはずの母親の姿は消えていた…… 音、消えた母の姿、それに僅かながらの不安と恐怖を感じ、立ち止まると同時に少しだけ振り返ると、そこには地面へと崩れ落ちている母親の姿…… 一体……何が起こっているのか この目に映る光景を理解する事が出来ないまま 袋の荷物が散乱して居る中 その場に立ち尽くしていた…… そして、やがて聞こえて来るサイレンの音…… これが運命なのか、宿命なのか…… 暖かい風の吹く、晴れた春の日…… 小学3年の俺の“道”の始まりだった……
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