雪の日に。

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      それからしばらくして、異変は起こった。     一ノ瀬の様子がおかしい。     それまでは下を向いて歩いていた。 それが、いきなり立ち止まり、きょろきょろと辺りを見回すと、何か呟きはじめた。 みんなも一ノ瀬の異変に気付いたのか立ち止まり、怪訝そうな目を向ける。     「またお前かよ。今度は何だ?泣き言言ったら、ブッ殺すからな。」     三島が睨み付ける。 だが、一ノ瀬は我関せずで、周りを見回しては何かを口走るばかり。     「おい幸喜、どうしたんだよ?」     めんどくさそうに七瀬が一ノ瀬の肩に手を置いた瞬間。     「ははは…寒くない…貴一、寒くないんだ!ほら、むしろ、暑い…暑くないか…?」     七瀬の肩に掴みかかり、馬鹿みたいに揺さぶる。 声は上ずり、明らかに正気じゃない。 ぎょっとした顔で、一ノ瀬を突き飛ばす七瀬。     「幸喜、しっかりしろよ!」     あぁ、そういえば昔、テレビで見たことがある。 トチ狂って、雪山で全裸で死ぬ人の話だ。 まさか、本当にそんなことが有り得るなんて。 僕は頭の片隅で、他人事のようにそう思った。     「暑い…暑い…。」     しりもちをついたまま、一ノ瀬は帽子とゴーグルを毟り取るように脱ぎ捨て、ウェアにまで手をかけた。    
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