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「ふう、これでOKでございますわね」
キラキラと光る大理石の床を見下ろして、私は一つ息をつきました。
私が鏡のように磨きあげた廊下は、限りなく透明な窓から差し込むお日様の光で、美しい輝きを帯びてございます。
大食堂では、シェフの皆様が腕によりをかけて作った料理の数々が、私の完璧な配膳で彩りを増しつつ並べられ、喰らわれるのを待ちわびてございます。
あとは、皆様を起こすだけ。
テーブルに並んだ料理を眺めながら、私は一つ息をついたのでございます。
……言葉使いがおかしい?
黙れでございます。
ああ、申し遅れました。
私は大富豪雨宮家に仕えるメイド『雨宮冥土』でございます。
名字が一緒なのは偶然でございます。
名前が適当? 黙れでございます。
それにしても、この東京ドームと同程度の面積を有する雨宮家。
朝の掃除だけでも一苦労でございます。
「冥土さん、おはよう」
額に流れる汗を拭っていると、背後から私を呼ぶ声がありました。
「おはようございます、奥様」
食堂に入り、私を呼ぶこの女性。
セミロングの金髪に、金銀の刺繍が施された白いドレス。
ダイヤにパールにエメラルド。
節操無く身体中を飾り付ける宝石。
この方が雨宮家の主、『雨宮黄英』様のご夫人、『雨宮黄英香』様です。
黄英香様は、普段人の良さそうな笑顔を振り撒いてはおりますが、黄英様の前妻に無実の罪を着せて自殺に追い込み、失意の内にある黄英様に取り入って、結婚にこぎ着けたという経緯が御座います。
ああ勿論、黄英様は前妻の死の真相は存じておりません。
前妻は本当に犯した罪を苦に自殺したと思い込み、その時に支えてくれた黄英香様を、それはそれは素晴らしい女性だと感じてらっしゃるようです。
まさに悪女。彼女の身体の中には緑色の血が流れているに違いありません。
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