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「旦那様、申し訳ありませんでした。旦那様は豚などではございませんよ」
天使のような笑顔で紡がれる私の言葉に、旦那様はゆっくりと顔を上げ、「本当かい?」と聞き返されたのです。
「ええ、本当でございますよ。例えば豚からは良質なラードが得られ、様々な料理に役立ちますが、旦那様をいくら搾っても、出るのは脂汗くらいなものです。クソの……失礼、ウンピエールの役にも立ちません」
心を癒すクラシックのような流麗な私のボイスに感激されたのか、旦那様は再度俯いて目を閉じます。
それは、私から紡がれる調べに聞き入っているように見えました。
「それに、豚の肉はとても美味でございますが、旦那様の肉は犬も食いません。根拠もございます。私ですら鼻をつまみたくなるような加齢臭や汗の臭いを漂わせている旦那様に、人間より遥かに優れた嗅覚を持つ犬が近寄るはずがございませんもの」
旦那様はいよいよ感極まって、身体を震わせておいでです。
さあ、あと一押しですわ。
「即ち、旦那様は豚ではございません。旦那様は旦那様でございます。特別なオンリーワンでございます。胸を張って、これからも生きて下さいませ」
私の完璧なフォローが終わると、旦那様は黙ったまま俯いておりました。
旦那様の瞳が、陽光でキラキラと輝いております。
ふふっ。きっと嬉し涙を流しているのでしょう。
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