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「ときめいた相手がプロイセンだなんてあんまりじゃないですかぁあぁ!」
そんな嘆きとともにフライパンが顔にクリーンヒットしたのは数時間前だ。
未だ 痛みがひかない左頬に氷をあてがいながら、何回目かわからないため息をついた。
「オブラートに包んでくれたっていいもんを……」
「あなたの口から“オブラート”だなんて聴く日が来るとは、夢にも思いませんでしたよ」
「うるせぇ、そういう時だってあるんだよ坊ちゃんが!」
「こ、こら! マリアツェルを引っ張るのはお止めなさい…!」
今は1番逢いたくない男だった。
自分の想い人の想い人。
つまり敵の味方だ。
どうして彼女は俺じゃなくてこいつを選ぶ?
「何が駄目だって言うんだよ!?」
「マリアツェルは私の体の一部ですよ! 駄目に決まっているでしょう、お馬鹿さんが!」
「マリアツェルなんか今はどうでもいいんだよ!!」
「どうでもよくありません!! 一体どうしたというのです? いきなりマリアツェルを引っ張ったかと思えば、今度はマリアツェルなどどうでもいいと…」
「こっちが教えてほしいぐらいだ! 俺の何が駄目だって言うんだ!? 俺に何が足りないんだ!? なぁ教えてくれよ!」
気付いた時には、氷袋も理性もどこかに放り投げて胸倉を掴み上げていた。
あまり度が入っていない眼鏡の向こうから、濃紫の瞳が見下ろしている。
困惑したような、呆れたような、驚いたような、そんな表情。
「気付いて…ないのですか?」
「はっ?」
「………はぁ………。」
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