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「エリザベータに何か言われたのですね…。ルートヴィヒは鈍感だとわかっておりましたが…まさか、あなたまで鈍感だったとは。」
「は?」
「流石、というかなんというか…」
「なんなんだよ。言いたいことがあるならさっさと言えよ!」
「ひとまず、手をお離しなさい。」
胸倉を掴む手に線の細い手が触れる。
自分と同じように戦う為に生まれたというのに、今は人を癒やす手となっている。
どこでどうなればそうなる?
俺も過去に戻ってやり直せばそうなれるのか?
やり場のない気持ちを沈めるためにも、ゆっくりと手を離した。
意図も簡単にするりと体の脇に戻る。
それをただ見ていると、コトンと音がした。
「…それから、落ち着きなさい。」
物音はコーヒーカップをテーブルに置いた音だったらしい。
飲むように促し、アンティーク調の椅子に腰掛ける。
ゆっくりとコーヒーの匂いが鼻をくすぐった。
「……エリザベータはなんと言っていたのですか?」
「その前にさっきの意味を…」
「答えれば自ずとわかります。」
「………と、ときめいた相手が俺だなんて……あんまりだって…。」
改めて自分で言うと2倍のダメージだ。
更に身の回りの空気をどんよりさせると、目の前の男は肩を震わせている。
何がおかしい?
俺の、何がおかしい?
「ふふっ、エリザベータらしいですね。」
「なっ! こっちはどんだけショック受けたと思ってんだ!」
思わず拳でテーブルを叩いた。
コーヒーカップが僅かに揺れ、並々と注がれたコーヒーが波立つ。
未だに笑いを堪えている表情をしながら、奴は謝罪の言葉を並べた。
「すみません…っ…。あまりにもわかりやすい反応でしたので…。」
「…っち……。」
「そう言えば、こういう ことわざを知っていますか?」
「こ…ことわざ?」
「えぇ。菊の国の…。」
「本田の?」
ゆっくりと口元にカップを持っていく。
湯気が鬱陶しかった。
「えぇ。“嫌よ嫌よも好きのうち”ということわざを。」
「嫌よ嫌よも好きのうち……。」
「アルフレッドとアーサーみたいな感じでしょうかね。」
アルフレッドとアーサー…。
金髪眼鏡のハンバーガー野郎なアメリカ人と、金髪碧眼のまゆげが印象的だったイギリス人。
確かにあいつらは嫌々ながらも結局は一緒にいるな…。
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