優雅な闘争心

4/4
前へ
/36ページ
次へ
  「あなた、好きな人がいるとちょっかいをかけたくなる質でしょう?」 「はぁ!?」 「たまには自分の気持ちに素直におなりなさい。そうすれば、エリザベータもあんな事は言わなくなるはずですよ。彼女は人の気持ちを汲み取るのが上手い、優しい女性ですから…」 「……………。」 「…いきなり黙ってどうしたのです。」   やっぱり、こいつには叶わないような気がした。 俺だったら、平気でこんな事をさらりと言ってのける事なんてできない。   「ギル」   あいつにはこいつが似合う。 そんな事は随分前に気付いていた。 気付いていたはずなのに。   「ギルベルト」   諦めの悪い男だ。 女々しい。   「ギルベルト・バイルシュミット!」 「…!」 「…やるべき事が見えたのではないですか?」 「やるべき…事………?」 「そうです。早くしないと盗りますよ。」   なるほどな。 ようやくこいつの言いたいことがわかった。   「はっ! 誰がてめぇみたいな坊ちゃんにやるか! 俺様が先に目ぇ付けたんだよ!」 「さて、あなたのようなお馬鹿さんに彼女の心は盗めるでしょうかね。」 「ほざいてろ! 俺が華麗にかっさらってくらぁ!」   なんだ、嫌な貴族の坊ちゃんだと思ってたのに いい所もあるじゃないか。 …悔しいから絶対言わないけどな。   俺は白い豪奢な扉のドアノブに手をかけながら、後ろ手に声を張り上げた。   「あ、ありがとな…!」         扉が閉まるのと同時に長い吐息が自然と出た。   「敵に塩を送ってしまいましたね。」   長年使い古した、あまり度の入ってない眼鏡を外す。 ピアノの上の譜面が風でめくれた。   「さて、私も反撃開始といきましょう。」       (おい!) (なに?) (すすす、す、すす…) (お酢なら無いわよ。) (す、凄いトマトがアントーニョん家でとれたらしいな!)     前言撤回。 彼女が私を選ぶのも、時間の問題ですね。          Fin  
/36ページ

最初のコメントを投稿しよう!

247人が本棚に入れています
本棚に追加