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「あなた、好きな人がいるとちょっかいをかけたくなる質でしょう?」
「はぁ!?」
「たまには自分の気持ちに素直におなりなさい。そうすれば、エリザベータもあんな事は言わなくなるはずですよ。彼女は人の気持ちを汲み取るのが上手い、優しい女性ですから…」
「……………。」
「…いきなり黙ってどうしたのです。」
やっぱり、こいつには叶わないような気がした。
俺だったら、平気でこんな事をさらりと言ってのける事なんてできない。
「ギル」
あいつにはこいつが似合う。
そんな事は随分前に気付いていた。
気付いていたはずなのに。
「ギルベルト」
諦めの悪い男だ。
女々しい。
「ギルベルト・バイルシュミット!」
「…!」
「…やるべき事が見えたのではないですか?」
「やるべき…事………?」
「そうです。早くしないと盗りますよ。」
なるほどな。
ようやくこいつの言いたいことがわかった。
「はっ! 誰がてめぇみたいな坊ちゃんにやるか! 俺様が先に目ぇ付けたんだよ!」
「さて、あなたのようなお馬鹿さんに彼女の心は盗めるでしょうかね。」
「ほざいてろ! 俺が華麗にかっさらってくらぁ!」
なんだ、嫌な貴族の坊ちゃんだと思ってたのに いい所もあるじゃないか。
…悔しいから絶対言わないけどな。
俺は白い豪奢な扉のドアノブに手をかけながら、後ろ手に声を張り上げた。
「あ、ありがとな…!」
扉が閉まるのと同時に長い吐息が自然と出た。
「敵に塩を送ってしまいましたね。」
長年使い古した、あまり度の入ってない眼鏡を外す。
ピアノの上の譜面が風でめくれた。
「さて、私も反撃開始といきましょう。」
(おい!)
(なに?)
(すすす、す、すす…)
(お酢なら無いわよ。)
(す、凄いトマトがアントーニョん家でとれたらしいな!)
前言撤回。
彼女が私を選ぶのも、時間の問題ですね。
Fin
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