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夏になると、彼は春の「とある出来事」を思い出します。
「とある青年」の家での短いやりとり。
そして、儚い約束を。
彼が出会ったのは、墨色の絹のような髪を持ち、純白の軍装に身を包んだ青年でした。
大人しそうな小さな唇。
しかし、意志をしっかりともった精悍な漆黒の瞳。
ほのかに朱を差す頬は透き通っており、まるで大福のような白さ。
やや他の者より小柄で、線が細く、今にも折れてしまいそう。
青年の第一印象でした。
しかし、青年は彼よりうんとじいさんだと笑います。
四季を愛で、規律を重んじる。
やや堅物だが、誠実で生真面目。
うわさ通り。
いやはや、うわさ以上か。
青年は時折、精悍な瞳を伏せて憂います。
不謹慎ながらも、彼はその表情がとても美しいと思いました。
そう、例えるならば―――桜。
青年の家で春先になると小さな愛らしい花をつける樹。
そしてまた、儚げに散りゆく。
青年はそれをそう呼んでいました。
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