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「私、ちょっとヘマしちゃったかもー」 何が?と即聞かれ、少し戸惑いかけたが、私は亜以子チャンを見ずに言った。 「直太の事。ヘマしちゃったかも。 酔っ払った勢いで部屋行って、迷惑かけちゃってさー」 私、笑えてる……? それだけが、気掛かりで。 亜以子チャンの、顔を見る事が、出来ない。 「……何かあった?」 何か、あった。 何かが、ありすぎた。 木田さんと飲んで、喋って。 酔った勢いで直太の部屋に行って。 酔っ払った勢いで、直太に触れようとした。 「何かあったって言う程の事でもないんだけどさ? まぁ、簡単に言うと、もう直太とは会えないなー、みたいな」 笑うのは、私だけで。 亜以子チャンは、何も言わない。 「だから大変申し訳ないんだけど、暫く事務所に取りに行くの、亜以子チャンにお任せしてもいい? その代わり、今まで以上に精出して働くからさー」 そう言って、何とか亜以子チャンの方へ顔を向ける事が出来た、が。 彼女は、一つも笑っていない。
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