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「ねぇ美沢、最近地元に帰ったりしてる?」 夜、亜以子チャンちに誘われて。 二人でご飯を食べていると、ふと、質問をされた。 「全然帰ってないなー。日帰りはきついから、最低二日休みじゃないと無理」 飲みに行った時の事と、その後直太の部屋で起こった事を聞かれるかと思いきや。 亜以子チャンは、その事には触れずに居た。 私の心は、やけに落ち着いて居る。 諦めに似た、感覚。 「亜以子チャンは帰ってるの?」 「うん、何気に近いからねー、電車で一時間半あれば帰れるし」 “最近なんてお見合い話持ちかけられたよー”なんて、笑いながら亜以子チャンは言う。 「まぁ、だんだん三十路に近付いてますしー?」 そう言って、私は亜以子チャンを茶化した。 とりあえず、まだ、茶化すだけの余裕はあるようだ。 「美沢、明日帰ればー?」 唐突な提案に、私は驚いた。 「え? 私、明日休みじゃないよ?」 「大丈夫大丈夫、本店から研修で人が来るってこないだ言ってたし。 いいじゃん、たまには帰って顔見せてあげたら?」
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