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『……――終点、終点――……』 電車から降りると。 久々に見た景色と空気が、いっぺんに普段の生活を忘れさせてくれる。 駅を出、坂道を下ると、すぐに私の住んでいた家が見えてきた。 「美沢ー!!」 母が大声と共に、家の前で手を振っている。 その姿を見て、駆け足で母の元へと向かった。 「ただいまー、お母さん」 「おかえり、混んでなかったかい?」 「うん、結構空いてたよ」 そうかい、と、母は私の荷物を持とうとした。 いいよと言って断っても、いいから、と言って、母は笑顔で私のバッグを持ち上げた。 家に足を踏み入れると、煮物の匂いが広がっている。 それが、実家に帰って来た事を実感させてくれた。 「今日のご飯、何?」 その質問に、私の好物の品々の名を挙げてくれた母の笑顔が、嬉しかった。
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