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その会話が新鮮で、でも、どこか懐かしいような感覚で。 小さい頃から、お父さんなんて必要ないって思っていたけれど。 テレビで出てくるような、こんなあったかい家族の雰囲気に、本当は憧れていたのかもしれない。 少しだけ勇気を出して、“お父さん”なんて呼んでみようかと思ったりもしたが。 初対面なのに、差し出がましいかもしれない、と、躊躇した。 「やだ、ビールもう無いわ」 あなたたち飲み過ぎなのよ、と、少し母は怒る。 「美沢ちゃんと飲んでると、いつもより美味しく感じるから進むんだよ」 そう言って、“父”は笑う。 その言葉が、凄く嬉しかった。 「私、買ってこようか?」 「いいわよ、母さん買ってくるから。すぐ帰るから二人で飲んでて」 財布を片手に、母は買い物へと急いだ。 いざ、二人きりになると。 言葉が途切れ、緊張感が漂う。 何か話さなくちゃいけないって思えば思うほど、何も言葉が出てこなくて。 とりあえず、手元のビールを飲む。 が。 意外にも、沈黙を破ったのは、私の口だった。
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